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■ 遺伝子の不思議
2005.11.15

ずっと昔、数十年も前の日本のどこかの病院で、「ねこ鳴き症候群」という疾患の赤ちゃんが産まれた。
初めてその疾患の赤ちゃんをとり上げた産婦人科医は、最初に保育器の中で赤ちゃんが泣いたとき、「え?ねこがいる」と、ナースステーションの床を見回した。それくらい、この疾患の赤ちゃんの泣く声は、猫にそっくりだ。

「長生きはできませんよ」と、小児科の主治医から言われたご両親は、肩を落としながら、それでも一生懸命病院に通った。
お母さんは出産後まもなく退院できたが、保育器に入った赤ちゃんは、まだまだ小さく、とても外に出せる体重ではなかった。よって赤ちゃんは、ナース、クラーク、みんなのアイドル。「猫鳴きちゃん♪」と呼ばれてとてもかわいがられた。だって、名前がなかったから。ご両親は、"長生きできない" と聞き、名前をつけるのを嫌がった。戸籍法だか住民票の取り決めだか知らないが、産まれてから役場に届け出なきゃいけない期限のぎりぎりに、やっと、仕方なく、名前が決まった。それでもスタッフは呼びなれた「猫鳴きちゃん」と呼んだ。

ある日、ご両親の父親のほうが、小児科の主治医に
「先生、なぜこんな子が産まれたんですか?」と詰め寄った。「私達夫婦のどちらの遺伝子に問題があるんですか?調べてください」
主治医は静かに言った。「原因を調べて、どうするんですか?犯人探しじゃあるまいし」
でも、父親は譲らなかった。
主治医は、「ご夫婦だけの問題じゃなくなるかもしれませんので、ご両親にも相談してみられては?とにかく、もう一度よく考えてください。」
と、説得し、その場は帰っていただいた。

その父親が、自分の母親を伴って再び来院するのに、さほど時間はいらなかった。
父親の母、つまり「猫鳴きちゃん」のおばあちゃんも一緒になって、原因を調べてくれと言い出した。
お嫁さんは、下を向いたまま、一言も言わなかった。
当時20歳代の私は、「なんて酷い人たちなんだ。お嫁さんは大変な思いをして出産したばかりだというのに」と思った。「お嫁さんの遺伝子のせいじゃありませんように」と祈った。

血液検査の結果も時間がかかったが、保険がきかない検査なので、かなりの費用がかかったんだと思う。
忘れたころに結果は届き、当事者より先にもちろん主治医は確認し、教えてもらったわけではないが、なんとなく雰囲気で父親の方の遺伝子の遺伝のせいだとわかった。ほっとした。

その後、説明を受けた猫鳴きちゃんの父親とその母は、なら仕方ない・・・って顔をした。
お嫁さんは、下を向いたままだった。
これがもし、「お嫁さんの方の遺伝子のせいです」 という結果なら、どうなっていたんだろう?

それをわかったからって、産まれた子の面倒はみないと、父親は言ったのだろうか?

遺伝子の本を読んでいて、ふと昔のことを思い出した。
人の遺伝子は22対の常染色体と1対の性染色体の46本。チンパンジーは48本。なんで多いの?
不思議だ。


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