玉名ラーメン物語

真剣勝負

2006.04.13


 「固茹(ゆ)でのめんを食べたいなら出前はお断りだ。店に来て食ってくれ」。 某老舗店。固めに茹でたラ-メンの出前を頼んだ客に、店主はキッパリと答え電話を切ったという。
「ギョウザは置いてないよ。ギョウザ屋じゃないんだから」「気に入った人だけが食べに来てくれればいい」
店主の“もっこす”ぶりを表すエピソードは多い。作り手の自信の表れでもあるのだろう。これに対し、「スープがいつもと違う」「めんを変えたの?」と常連客の反応も鋭い。
 「特に地元のお客さんは味の変化に敏感。少しでも変わるとすぐ指摘がある。常に真剣勝負ですね」とある店主。「子どものころから食べ慣れているから分かるんでしょう」
 玉名出身で神奈川県座間市の納冨裕幸さん(26)は「帰省したら必ず食べる。関東の豚骨とは深みが全然違う」と地元の味が忘れられない。玉名市中の上嶋收さん(68)も「東京にいる娘が帰省したら、必ず一度は家族で食べに行く。どうしても行けない時は出前。玉名ではそういう人も多かですよ」。
 玉名にラーメン店が誕生して50年余。昨年は新たに2軒が開店した。JR玉名駅前に進出したのは久留米系スープ味の「黒龍」。奇しくも熊本ラーメンのルーツとされる「三九」がかつて出店した地だ。豚骨のクセやこってり感はほとんどない新しい味。大牟田市から店を移した小島修さん(55)は「玉名は強豪店ばかり。どこまでやれるか分からないが、挑戦していきたい」。
 温泉街にオープンしたのは「丸幸」。スープには豚骨のほか鶏ガラも使う。「徐々にお客さんも増えている。定着させていきたい」と西阪國行さん(55)。
 ライバルはほかにもある。3年前にラーメン激戦地・玉名に乗り込んだのは讃岐うどん店「多楽福」(繁根木)。自家製手打ちめんが自慢だ。店主・黒木次弘さん(46)=山鹿市出身=は「めんの味が分かる人が多いからこそ、うどん店にも勝機ありと思った」と話す。
 こだわりの店主たちと舌の肥えたファン。玉名ラーメンは磨かれ、日々進化していく。  =終わり

写真:休日の昼時ともなると多くのファンが詰めかける玉名市の専門店。

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