共同創作童話

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「ともとも島」★第五部(水の精)★

2005.7.26


HONMAのソーラーカーは忠実にしかも無駄の無い走行で、”眠らない湖”の入り口まで四人と一羽を運んでくれました。
ふみっち一行はソーラーカーを降りて、湖の淵まで歩いて行きます。
湖は名前とは裏腹に死んだように眠っているかのようです。物音一つしない静かな周辺と波紋すらない水面は、まるで眠り姫のようです。
四人と一羽は、恐る恐る水面へ顔を映してみます。淀みも波紋もない水面は鏡のように皆の顔を映し出します。

「OWL先生があげんかこつば言うけん、えすかったばってん、どげんなかね」ともっちが言いました。
「うん。えすか動物っておらんごたるね」コロっち。
「何で”眠らない湖”って言うとやろか?」いなっちが不思議そうに言ったその時です。
湖の水面が凄い勢いでいくつも渦巻きを作り始めたのです。
そして、渦巻きと同時に湖を囲むように生い茂った木々がいつの間にかザワザワと騒がしくなってきました。
皆はビックリして後ろにひっくり返り、その様子をただ呆然と見ていました。

「やっぱり、引き返そうよ」と言ったのはコロっちです。
「うん、うん。その方が良かごたる」とは、いなっち。
「何ば言いよっとね! ここまで来て、引き帰すなんて出来んばい!」強がって言い放す、ふみっち姐さんも声が震えています。

「ほーっほっほっほ」どこからともなく笑い声が聞こえます。
「私が眠らない”水の精”タマリンです」  
湖の中央でひときわ大きく渦を巻いている真ん中に浮かぶように姿を現した美女。
「あなたが、”水の精”タマリン様ですか?」
「そうです。この”眠らない湖”を文字通り眠らずに守っているのです」
その美しい姿に、ともっちは思わず「たまりんません」と口走りました。カラスのかんちゃんが嘴でともっちの頭を突きます。「いてっ!」ともっちはかんちゃんをにらみますが、かんちゃんはしらんふりです。

いつの間にか四人と一羽の周りにはヘビやらトカゲ、もぐらの大群が囲むように大挙していたのです。
「うわ~、身動きとれんし、えすか!」いなちゃん
「ど、どげんしようか?ふみっち姉ちゃん!」コロっちも叫びます。
「これじゃ、どげんもできんばい・・・」ともっち。
「・・・・・」ふみっち姐さんも成す術がありません。

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ。この”眠らない湖”にはそのような小動物がたくさんいて、私の一声でみんな動くのです。そして、凶暴なモノも中にはいます。だから、私は眠れないのです」
その時、これまで黙っていたカラスのかんちゃんが、「ここは空を飛べる僕に任せんね」と言って、空高く舞い上がりました。

空高く舞い上がったカラスのかんちゃんでしたが、なかなか戻ってきません。
四人は、ヘビやらトカゲを相手に格闘しています。
しかし、切っても切っても直ぐに甦生する相手にクタクタになっていました。

「かんちゃんな、いったいどこさん行ったと?」いなっちが堪らんといった口調で叫びます。
「ほんなこつね。もう戻ってこんとやなかろうか?」と言うのはコロっちです。
「まだまだ、ですばい」一人気合を入れて頑張っているのは、ともっちです。
「かんちゃんば信じてここは頑張るとよ!」ふみっちも汗を拭わずに頑張っています。
いなっちとコロっちは仕方なく剣を持って、ヘビやらトカゲに立ち向かいます。

四人が根を上げる寸前でした。遥か遠くからかんちゃんの声が聞こえてきました。
「ごめんごめん! 大分遅くなってしまった」
四人が声の方向を見ると、何と”空跳ぶ船”を運転して来たのです。
「どっから、こげんかもんば持ってきたとね?」ふみっちが言います。
「ちょっと、近くにHONMAの工場があるとば思い出してね」かんちゃんは簡単に言います。「まだ、試行作品げなばってんね」
「それって、試作品のこと?」いなっち。
「うん。おまけに社外秘のごたる」
「当たり前やろうもん!」コロっち。
四人は恐る恐る”空飛ぶ船”に乗り込みました。

「さて、”水の精”たまりん様をどうやって攻略しましょうか?」かんちゃんは攻略法を知っているような口ぶりです。
「さて、何だか難しかごたるね」ふみっちが頭を抱えます。
「こんな作戦ではどうでしょうか?」かんちゃんが得意げに言います。
「なんね?」
「・・・もそもそ」
「はっきりせんね! 男やろもん!」ふみっちはヘビやらトカゲの集団から逃れて少し元気が出てきていました。

かんちゃんは、4人だけに聞こえるくらいの声で言いました。
「実は、もう一つ、秘密兵器のあるったい。」
「なんてな!?はよ言わんね!」
と、4人は口を揃えて言いました。
「これ、はい、みんな頭につけて」かんちゃんは、丸いライトのついたヘアーバンド状のものを4個、みんなに配りました。
「なんね?これ?」いなっちが興味津々に聞きます。
「これは、"G3ランプ" と言って、心の中で、見たいと思ったものだけが見えるったい」
「すごか~!どこで売っと~と?」ともっちが驚いて聞きます。
「これは売りもんじゃなか。ともとも島の"京いっち博士"と言う人が数年前に作ったったい。でも、はやらんかったげな」
「なんでG3なの?」ふみっちは"3"という数字が気になるようです。
「1と2は、研究途中で爆発したげな。」
「え~~っ!ば?ばくはつ~?!」思わず4人は、叫んでしまいました。
「あ、でもこのG3は大丈夫。爆発せんように、新たに開発されたもんやけん」
4人は、一度は頭につけてみたG3ランプを手に取り、ほんとに爆発しそうにないか、しげしげと見つめるのでした。 

4人は、また恐る恐る“G3ランプ”をかけてみました。
しかし、何も見えません。目の前は真っ暗です。
そうです、“G3ランプ”は心の中で見たいと思ったものしか見えないのです。
そこで、いなっちは心の中で“ラーメン”を見たいと思いました・・・しかし、結果は同じです。何も見えません。
「心の中で思ったもんが見えんやなかね! “G3ランプ”は嘘もんやなかと!」いなっちがかんちゃんに突っかかります。
「えっ!? 何ば見ようと思ったと?」かんちゃんが冷や汗をかきながら聞き返します。
「大好きな“ラーメン”たい」
「へっ? あのね、いなちゃん。いくらなんでもその場に無いものば心で思ったって、見えるわけなかろうもん」
「???」
「その場にあるだろうものを心の中で思えば、それだけが見えるったい」
「へ~ぇ、そういうことか!」

4人は相談して、次のように見たいものを割り振りました。
ふみっちとコロっちが、“天女の奇跡”の破片を、
ともっちといなっちが、“光る雫”を・・・
そして4人は、心の中でそれらを見たいと思いました。
すると4人がかけた“G3ランプ”の真ん中にあるランプが光を放ち出しました。
「お~ぉ、見える見える!」ともっちが叫びました。
他の3人も「見えるね。見えるね」とそれぞれ口に出して言います。

ふみっちとコロっちは、“G3ランプ”を外して、“天女の奇跡”の破片の在りかを確かめます。
“天女の奇跡”の破片は、湖の中央に浮かぶように立っている”水の精”タマリンの耳の辺りにぶら下がっていて、イアリングにしているようです。
ともっちといなっちも同じように確認すると“光る雫”は、”水の精”タマリンの足元にたくさんあることが分かりました。
「さ~ぁ、これでターゲットがはっきりしたわね」と、ふみっちが言います。
「オーッ!」と、みんなは気勢を上げました。
かんちゃんは、”水の精”タマリンの左耳をターゲットに空飛ぶ船を運転します。
みんなは戦うつもりで、剣をかざしています。
「待ちなさい!」”水の精”タマリンが口を開きました。
その声で、かんちゃんは空飛ぶ船をストップさせました。
「そなたたちは、何の為にここ“眠らない湖”に来たのです?」
ふみっちが、これまでの経緯を説明します。
「そうでしたか。“月の精”も“木の精”もこの“天女の奇跡”の破片を渡したと言うのですね?」
「そうです」4人は口を揃えて言いました。
「それでは、この“天女の奇跡”の破片を持っていくが良い」と言って“天女の奇跡”の破片を放り投げました。
危うく湖に落としそうになりましたが、何とか受け取ることが出来ました。
「あ、ありがとうございます。”水の精”タマリン様」ふみっちが言います。
他の3人と1匹も頭を下げます。
「いいえ、礼には及びません。島の神”モットモタケルノミコト”様のことですから、きっとお考えがあってのことでしょう。成功を祈りますよ」と言って、”水の精”タマリンは、湖の中に沈んで行きました。
同時に、たくさんの渦を巻いていた水面も、湖を囲んだ木々も静かになりました。
辺りは、来た時と同じような静かな静かな湖に変わっていました。
「良かったね」「やったね」「バンザイ」・・・と、みんな口々に歓声を上げました。

HONMAのソーラーカーに4人は戻って、空飛ぶ船を工場に返しに行ったかんちゃんを待っていました。
「ねぇ、何か忘れてない?」コロっちが言いました。
「何かって、何ね?」ふみっち。
「思いだせんばってん、何か忘れとる・・・」
「光る雫! やろ。それならさっき、拾ってきたバイ」いなっちが言います。
「何で、そげんか大事なこつば黙っとると!」ふみっちが怒りながら言いました。
「ごめん。。。(あれ?どこかでこげんか場面、あったような・・・まいっか~)」

第六部へとつづく!

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